硫黄燃料油への燃料切り替えに伴う問題点と対応策

1. はじめに

硫黄分排出規制の強化に伴い202011日からスクラバー搭載船以外ではHSFOが使用不可となるため、2019年内に燃料切り替えを行う必要がある。安全かつ経済的に燃料油の硫黄分を0.5%以下にすることが重要であり、スラッジ発生をいかに抑えるかがポイントとなる。本稿では、タンク洗浄と燃料切り替えに関する注意事項、および当社スラッジ分散剤SD-20の特徴と活用事例について概説する。

2. FO Storage Tank内のスラッジ形態

2.1 タンク洗浄前

タンク内に存在するスラッジは、これまで使用してきたバンカーの性状や添加剤の使用有無などにより各船の状況は異なるが、タンク底部にドライスラッジが塊として存在することは多くはなく、アンポンパブルな残油と粘着性のスラッジが残っていると考えている。

②   タンク底部に長期間堆積して固化したドライスラッジ(塊)がある

② 粘着性のスラッジが燃料油中に巻き上がる微粒子状スラッジがある

③ アンポンパブルのHSFO残油のみでスラッジは無い

2.2 タンク洗浄後

低硫黄燃料油(VLSFO、またはLSMGO)を補油する段階において、HSFO残油との燃料混合により新たにスラッジが発生するリスクがある。Table 1HSFOLSMGOを混合した際のスラッジ発生状況を示しており、ある燃料混合範囲においてスラッジ発生が顕著になることが分かる。同様に、ブレンド油が主流となるVLSFOではLSMGOのような軽質留分がカッター材として使用され、粘度及び密度の違いからHSFOVLSFOの混合時にもスラッジ発生が懸念される。さらに、VLSFO同士の混合時も混合安定性に起因するスラッジ発生が懸念されることから、スラッジ分散剤の活用が重要と考えられる。

3. FO Storage Tankに堆積したスラッジの分散・除去

低硫黄燃料油(VLSFO、またはLSMGO)を補油する前に入槽してタンク掃除を行うことが好ましいが、Off-hireとなるケースもあり経済的な観点から好ましくない。船を止めずにタンク底部のスラッジを除去するため、HSFOに対してスラッジ分散剤を繰り返し投入するタンク洗浄が行われている。スラッジの形態に応じた対応方法を以下に示す。

3.1 ドライスラッジ

塊状のドライスラッジ内部に薬剤が拡散・浸透するのは難しく、スラッジ分散剤等を用いた除去は容易ではない。物理的な除去作業が必要と考える。低硫黄燃料油に対して不溶化したドライスラッジが急激に剥離・溶解することは考え難く、硫黄分上昇などが生じる可能性は高くないと予想される。次回のドック時にタンク掃除を実施すれば問題ないと考える。

3.2 粒子状スラッジ

ドライスラッジ化する前の微粒子状スラッジは、スラッジ分散剤を添加することでHSFO中に分散・安定化することが可能となる。当社ラボ実験において、HSFOに対してSD-201/10000添加した場合(Figure 1)や、予め燃料混合してスラッジを析出した燃料油にSD-20を添加した場合(Figure 2)において、スラッジ分散安定性の改善が認められた。

3. FO Storage Tankに堆積したスラッジの分散・除去

低硫黄燃料油(VLSFO、またはLSMGO)を補油する前に入槽してタンク掃除を行うことが好ましいが、Off-hireとなるケースもあり経済的な観点から好ましくない。船を止めずにタンク底部のスラッジを除去するため、HSFOに対してスラッジ分散剤を繰り返し投入するタンク洗浄が行われている。スラッジの形態に応じた対応方法を以下に示す。

3.1 ドライスラッジ

塊状のドライスラッジ内部に薬剤が拡散・浸透するのは難しく、スラッジ分散剤等を用いた除去は容易ではない。物理的な除去作業が必要と考える。低硫黄燃料油に対して不溶化したドライスラッジが急激に剥離・溶解することは考え難く、硫黄分上昇などが生じる可能性は高くないと予想される。次回のドック時にタンク掃除を実施すれば問題ないと考える。

3.2 粒子状スラッジ

ドライスラッジ化する前の微粒子状スラッジは、スラッジ分散剤を添加することでHSFO中に分散・安定化することが可能となる。当社ラボ実験において、HSFOに対してSD-201/10000添加した場合(Figure 1)や、予め燃料混合してスラッジを析出した燃料油にSD-20を添加した場合(Figure 2)において、スラッジ分散安定性の改善が認められた。

4. 燃料切り替え時の燃料混合によるスラッジ発生への予防・対策

燃料切り替えにおいて最も重要な事は、スラッジを発生させることなく安全に燃料油の硫黄分を0.5%以下にすることである。燃料切り替え時に多量のHSFO残油が残っていると燃料混合時によりスラッジ発生の可能性があることから、低硫黄燃料油を補油する前にトリム・ヒールや温度などを調整してHSFO残油を極力少なくすることが望ましい。

燃料混合時のスラッジ発生を積極的に抑えるためにはスラッジ分散剤の添加が有効である。スラッジ分散剤が逆ミセル構造を形成してスラッジを分散・安定化するためには最低限必要な添加量が存在し、分散性能や必要添加量は化学構造や燃料混合比等により異なる。Table 2からスラッジが発生しやすい条件において、SD-201/5001/200添加で良好なスラッジ分散性能を示すことが分かる。燃料切り替え時はHSFOに対する通常添加量に固執せず、燃料油の混合比等を考慮して添加量を決めることが重要である。

0.5%VLSFOに切り替える場合、単独安定性と混合安定性の問題がある。Figure 3のように単独では判定1”であっても、0.5%VLSFO同士を1:1で混合すると判定3”となり混合安定性に劣る場合がある。SD-20添加により判定1”となったことから、0.5%VLSFOにおいてもSD-20はスラッジ分散安定効果を示すことが確認できた。

一方、アロマ系とパラフィン系の混合によるスラッジ発生が示唆されているが、分析表からアロマ or パラフィン系を判断することは難しい。0.5%VLSFOの性状が安定になるまでは、スラッジ分散剤の添加量を増やして対応することも必要と考える。

5. HSFOから低硫黄燃料油に配管系統の切り替えを行う際の対策

燃料系統は「FO Storage Tank  Settling Tank ⇒ 清浄機 ⇒ Service Tank ⇒粘度調整器 ⇒ Auto Back Wash Filter ⇒ 主機 or 発電機」となる。FO Storage Tank以降の工程について以下にポイントを示す。

Settling TankService Tank

燃料レベル一定となるよう制御されているSettling TankService Tankでは燃料混合が避けられずスラッジ発生が懸念される。通常、温度は90℃付近に設定されるため、FO Storage Tankよりも動粘度が低下することもスラッジが発生しやすくなる要因である。

すでにFO Storage Tankにスラッジ分散剤を投入している場合でも、清浄機の運転状態に注意し、Settling Tank等にも追加投入することが有効と考える。VLSFOの処理を開始したら清浄機の時間あたりの処理量を下げ並列運転やブロー間隔を短くし、早いタイミングで開放点検を行ってスラッジの分離状況を確認するのが好ましい。

VLSFOによっては比重がLSMGOに近い物もあるが、清浄処理は必要と考える。

 Service Tankでは清浄機の運転不具合によって粗大なスラッジが堆積していることがあり、タンク底部の燃料出口弁からスラッジが流れ込み、機器のトラブルを生じることがある。

燃料添加剤の開発に協力して頂いたイースタンカーライナー株式会社(以下、ECL)の船舶管理会社ECLシップマネージメント株式会社(以下、ECLSM)では3年前からService Tank内にフローティングハイサクションを設置している。スラッジが少ない上澄み部分から燃料油をエンジンに供給することで、主機のトラブル発生が減少している。ドック毎のタンク掃除において回収されるスラッジ量の増加が認められ、Auto Back Wash Filterの逆洗回数が減少したとの報告も挙げられている。

Auto Back Wash Filter

フィルターの逆洗回数が増加することがある。燃料混合によりフィルター目開き10µ ~ 30µ程度よりも粗大なスラッジが生成していると考えられ、アスファルテンスラッジの凝集を抑制するスラッジ分散剤の添加が有効と考える。

6. 当社スラッジ分散剤

アデカエコロイヤル SD-20は、燃料切り替え時や0.5%VLSFO使用時の燃料混合に着目して開発されたスラッジ分散剤である。粒子の沈降速度(V)を表すStokesの式から、燃料混合に伴うスラッジ発生因子として、動粘度低下(η)、スラッジと燃料油の密度差増大(ρo-ρ)、およびスラッジの拡散・凝集による粒子径増大 (a) が挙げられる。

動粘度や密度差は燃料油に依存するため、スラッジ発生を抑えるためには粒子径増大を防ぐことが有効と考えられる。アデカエコロイヤルSD-20の作用メカニズムは、界面活性剤のようにアスファルテンスラッジを包み込み、燃料油中に分散・安定化することでスラッジ発生(粒子径増大)を抑制する。

 

 スラッジ分散効果を定量的に評価するため、HSFO/LSMGO=0.5/99.5 (w/w)SD-20を添加した燃料油をフィルターに通液した。アスファルテンスラッジは黒色固体でありフィルターで捕集することが可能である。Figure 5のように通液後のフィルターの重量増加率を比較した結果、SD-20添加量が多くなる程、スラッジ発生量が少なくなることを確認した。

またスラッジ沈降速度に対する影響を把握するため、HSFO/LSMGO=1/8 (w/w)で混合した燃料油にSD-20を添加して透過光強度の経時変化を測定した結果、Figure 6のようにSD-20添加量が多くなる程、スラッジの沈降速度(傾き)は小さくなることが分かった。

 

ClassNK検査員立会いの下、燃料混合時(HSFO/LSMGO)や0.5%VLSFO同士の混合時におけるSD-20の性能確認を行いClassNK性能鑑定書を取得した。

7. 燃料切り替えオペレーション

本船における燃料の取扱いと当社スラッジ分散剤「アデカエコロイヤルSD-20」の有効性を検証するため、ECLSM協力の下、市場に供給される主要港のVLSFOサンプルを入手した。本船上の燃料の取扱いに即した方法で実験を行い、オペレーションの有効性を検証した。上記3, 4に記載した通り、FO Storage Tankのスラッジを分散・除去するだけではなく、スラッジを発生させることなく安全に燃料切り替えを行い、燃料油の硫黄分を0.5%以下とすることを主眼に置いた。以下に、オペレーションのポイントを示す。

 HSFO残油をアンポンパブルな状態まで減らす

② FO Storage Tankのフラッシングにあたり最低限のLSGMOを使用する

・硫黄分0.5%以下となるよう希釈する

HSFO残油の粘度を下げて除去を容易にする

・複数のセクションに仕切られたタンク内へのスラッジ分散剤の拡散を補助する

③ 燃料混合比(HSFO/LSMGO=1/4, w/w)で分散効果が得られるようSD-20

1/200添加

・アンポンパブルなHSFO残油にLSMGOSD-20を加えることで使用量を低減

各段階における当社の試験結果を載せる予定(HSFO + LSMGOMGOmix + VLSFO

スラッジ分散剤を用いたタンク洗浄は繰り返し行わず1回のみ実施した。実験ではスラッジ抑制が顕著に認められ、SD-20が高いスラッジ分散効果を有する事を確認した。上記の燃料切り替えオペレーションによりスラッジを発生させることなく安全かつ速やかに、またコスト優位に燃料切り替えを完了することが可能と考える。現在、ECLSM管理船において燃料切り替えが進められている。