以前、タイタニックの沈没事故によりSOLAS条約が策定されたお話をしましたが、沈没時にはタイタニックの通信士が一生懸命モールス信号でSOSを出していたにも関わらず、付近の船は無線設備を備えておらなかったり、また備えていても電源をOFFにしていたため、タイタニックが沈みかけている事に気づきませんでした。

その結果、58マイルも遠くにいた客船カルパチア号の通信士のみが、タイタニックのSOSを聴き、救助に向かうこととなりました。それにより助かるはずの多くの命が失われました。

カルパチア(RMS Carpathia)は、キュナード・ライン社の外洋客船。処女航海は1903年1912年4月の「タイタニック」遭難事件で生存者の救助に当たったことで有名である。

この様な背景から、SOLAS条約を作る時に、通信手段の重要性についても見直しが行われ、GMDSS (Global Maritime Distress Safety System) というルールが、SOLASに組み込まれる事となりました。 

GMDSSは、いつでもどこでも陸上と連絡が取れることを原則としており、船の航行区域により搭載すべき無線設備や、それを扱う無線従事者の免許制度が細かく区分されています。

航行区域は、以下の様に4つに分けられています。

A1海域:陸からVHF電波の届く範囲(沿岸2030マイル)

A2海域:A1海域を除いた陸からMF電波中波(MF:Medium Frequency)の届く範囲(150マイル程度)

地球の曲率のために、電波がまっすぐ進むと地面に沿って進まず宇宙空間に飛んで行ってしまうので、MF電波は、150マイル程まででしか機能しません。

A3海域:A1A2海域を除いた静止型衛星の通信可能範囲(北緯70度~南緯70度)

緯度70度以上になると、衛星が赤道上で静止しているため、地球の曲率により大地が電波の障害物となり静止衛星での通信が出来なくなります。

A4海域:緯度70度以上の極海域

ここでは静止衛星での通信が出来なくなりますので、HF電波(High Frequency)を使って通信を行います。

HFは、上空の電離層と地面の間を何度も反射して、かなり遠くまで通信することが出来ます。

ただし通信の明瞭度がかなり低くなってしまいます。 

https://www.fbnews.jp/201707/musenkyoushitsu/

この様に、海域ごとに必要とされる電波が異なってくるので、その電波を出すための装置も、多岐に渡り全て船に搭載しなくてはなりません。

上述の内容は、船舶に要求される最低要件であり、最近では、衛星の数が膨大になり、技術の進歩も重なって海上であっても、衛星を介して高速通信が可能となっています。

そのため、多くの船が陸上とスムーズに連絡が取れるように、よりグレードの高い衛星通信設備を備えています。

最新のトレンドでは、イーロンマスクが始めたスターリンクというシステムが、業界を席巻しています。

これは、高度の低い所に4万2000機の衛星を打ち上げて、それこそ、いつでもどこでも、街中と変わらない速度で、通信サービスを提供しようとするものです。

もうすでに、5000機ほど打ち上がっているようで、場所によっては海上でも普通にYouTubeが見れるそうです。

これは、今まで外界から遮断されていた船乗りの生活環境を、一気に改善してくれる大きな転換点だと思っています。

それだけでなく、スターリンクのおかげで、現在計画されている自動運行船についても、現実味が深まって来たのではないかと思います。 

タイタニックが、モールスでSOSを出していた100年後に、衛星通信によって海上であっても、普通に連絡が取れることが当たり前になり、巨大な船が無人で航海を行える時代が来つつある、と考えると人間ってすごいなぁとしみじみと思います。

以上人間 (イーロンマスクってすごいなぁという話でした。