ご質問:

「バラスト管理システム」って、具体的にどのようなものですか?薬剤や赤外線などを使って、取り込んだ海水に含まれる生物を無害化するプラントだと思っているのですが・・・  https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC041S80U3A201C2000000/

 

 

ご回答:

「バラスト水管理システム」とは、文字通りバラスト水を管理するシステムのことで、「バラスト水処理装置」のことと思います。

 

「バラスト水処理装置」と聞いて、まず、「バラスト水」とは何か分からない方もいらっしゃると思いますので、そこからお話をさせて頂きます。

 

船は、貨物を積んでいない軽い状態だと船自身の姿勢が悪くなったり、プロペラが水面上に顔を出す状態になってしまい、推進効率が悪くなります。

 

船が軽いと言われて「鉄板で出来ているから重いはず」と考える方もいらっしゃると思いますが、商船では何千トン、何万トンの貨物を積むので、それに比べれば「軽い」状態になります。この「軽い」状態ですと、先に書きました通り、航海に支障をきたすことになりかねないです。

 

そこで、船内にあるバラストタンクに海水(バラスト水)を漲り、船を重い状態にします。昔は石や砂袋を積み込み「バラスト」の役割をさせていたのですが、石や砂袋だと積み下ろしに時間がかかったり、航海中にこの石たちが、転がり船のバランスを崩す危険もありました。

 

その点、バラストを海水にしてしまえば、船の周りは常に海水ですので、いつでもどこでも入れ出しが出来ること、また入れ出しが容易であることなどを理由に、バラストとして海水が用いられるようになりました。要するにバラスト水とは、船のバラスト(重し)として用いられる水のことです。

 

さて、このバラスト水は、「いつでも、どこでも入れ出し出来ること」を利点の一つに挙げましたが、この「いつでもどこでも」というのが別の側面から見ると問題です。

 

例えば、日本で積み荷を下ろして軽くなってしまった船にバラスト水を入れる。貨物が無い状態でバラスト水を持ったままアメリカに行く、そしてアメリカで貨物を積む為に、バラスト水を排出する、という状況を考えます。z

貨物に合わせて、いつでもどこでも船の重さを変えることが出来て便利ですよね。しかし、この「日本で入れたバラスト水」の中には、目に見えない大きさの様々な海洋生物、海洋生物の卵、微生物、細菌などが含まれており、それらはアメリカで排出されてしまうのです。

 

環境さえ適合すれば、その日本から「輸出」された微生物たちは、アメリカで生息することになります。よくテレビでも「日本の在来種が、外来種にやられている~」のようなニュースがありますが、まさに、その状態が色々な国で起こってしまうのです。

 

それを防止する為に、「バラスト水処理装置」が開発され、規則で搭載することが義務付けられることになりました。このバラスト水処理装置にはさまざまな種類があります。

 

フィルター+UV、フィルター+薬品、フィルター+電気分解等、が挙げられます。全てにフィルターが付いているのは、まず比較的大きな生物や不純物をフィルターで取り除く方が、処理効率がアップするからですね。

 

【フィルター+UV】

UVと聞いたら、殺菌出来ると認識される方も多いかと思います。まさしく、その通りで、UVで微生物の増殖能力を破壊し殺菌します。

 

【フィルター+薬品】

塩素系の薬品を投入し、殺菌します。プールの水と思って頂ければおおまかOKです。ただ、塩素系の薬品を投入したバラスト水は、そのまま排出すると、別の環境問題を起こしかねないので、中和させる薬品を入れて排出します。装置を付けた後も、ずっと薬品を購入し続けなければなりませんので、ランニングコストが高くなりがちです。

【フィルター+電気分解】

バラスト水を電気分解して殺菌します。理系の方は「水の電気分解」と聞いて、何となくわかる方がいらっしゃると思います。私も詳しくは説明出来ませんが、電気分解の陽極側と陰極側で強酸性の電解水と強アルカリ性の電解水が出来ることで殺菌します。

この3種類ぐらいが、メジャーなバラスト水処理装置の種類になります。

 

一言で「環境規制」といってもCO2規制もあったり、色々な方向からのアプローチの仕方があって、面白いですね。